福岡県立東筑高等学校は、北九州地区にその名を知られる、単なる進学校という言葉だけでは語り尽くせない魅力を持つ学び舎です。120年を超える長い歴史の中で、俳優の高倉健さんや芥川賞作家の平野啓一郎さんをはじめ、社会の様々な分野で活躍するリーダーを数多く輩出してきました。その伝統は、今も校内に脈々と受け継がれています。

しかし、東筑高等学校の真の特色は、歴史と伝統だけに留まらない点にあります。校是として掲げられる「質実剛健」の精神が、生徒たちの揺るぎない人間的土台を築く一方で、文部科学省から「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定を受け、未来を切り拓くための革新的な教育を実践しています。古き良き価値観と、最先端の学びが融合するこの環境こそが、東筑高等学校を特別な存在にしているのです。

「勉強ばかりで大変そう」「校則が厳しいって本当?」「自分もついていけるだろうか」。そんな期待と不安を抱えている中学生や保護者の方も多いことでしょう。この先を読み進めていただければ、データだけでは見えてこない、在校生や卒業生が語るリアルな学校生活、そして生徒一人ひとりの可能性を最大限に引き出す東筑の教育の本質が、きっと見えてくるはずです。

東筑高等学校の基本情報

まずは、学校の基本的な情報を確認しておきましょう。

項目 内容
正式名称 福岡県立東筑高等学校
公立/私立の別 公立
共学/男子校/女子校の別 男女共学
所在地 〒807-0832 福岡県北九州市八幡西区東筑1丁目1番1号
代表電話番号 093-691-0050
公式サイトURL http://tochiku.fku.ed.jp/

東筑高等学校の偏差値・難易度・併願校

東筑高等学校への進学を考える上で、まず気になるのが学力的な難易度でしょう。具体的なデータと共に、そのレベル感を詳しく見ていきましょう。

東筑高等学校の偏差値は普通科で「69」とされています。これは福岡県内の公立高校の中でもトップクラスに位置し、合格するためには非常に高い学力が求められることを意味します。同じくらいの偏差値の高校としては、小倉高等学校(普通科 偏差値68)や、久留米・筑後地区の明善高等学校(普通科 偏差値69)などが挙げられ、これらの学校と共に福岡県の公立トップ校群を形成しています。

合格に必要な内申点の目安については、公表されているわけではありませんが、このレベルの高校を目指す場合、一般的に45点満点中40点以上、できれば42~43点以上は確保しておきたいところです。中学1年生の時から、全ての教科で高い成績を維持し続ける努力が不可欠と言えるでしょう。

また、福岡県の公立高校入試では、別の公立高校を併願することはできません。そのため、東筑高等学校を受験する生徒の多くは、万が一に備えて私立高校を併願します。主な併願校としては、同じく高い学力レベルを誇る西南学院高等学校や福岡大学附属大濠高等学校、北九州地区の九州国際大学付属高等学校(難関クラス以上)や自由ケ丘高等学校(特別進学クラス)などが選ばれることが多いようです。これらの併願校もそれぞれが難関校であることから、東筑を目指す受験生は、非常に高いレベルでの学力競争に臨むことになります。

東筑高等学校に設置されている学科・コース

東筑高等学校に設置されている学科は「普通科」のみです。理数科や国際科といった専門コースはなく、全ての生徒が同じ普通科に所属します。

しかし、「普通科のみ」という言葉から画一的な教育を想像してはいけません。東筑高等学校のカリキュラムの最大の特徴は、学校全体が「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」として、探究的な学びを実践している点にあります。1年生では、文系・理系を問わず全ての生徒が「理数探究基礎」などの科目を履修し、論理的思考力や課題発見能力の基礎を養います。そして2年生からは、それぞれの進路希望に応じて文系と理系のコースに分かれ、より専門的な学習へと進んでいきます。

  • 普通科:国公立大学や難関私立大学への進学を目指し、幅広く深い教養と学力を身につけるためのコースです。将来の目標が明確で、高いレベルの学問に挑戦したいという意欲のある生徒に最適です。SSHのプログラムは、文系の生徒にとっても、論理的な文章構成力やプレゼンテーション能力を高める上で大きな力となります。

東筑高等学校の特色・校風

学校選びでは、偏差値や進学実績と同じくらい、学校全体の雰囲気が自分に合うかどうかが重要です。ここでは、東筑高等学校の校風や生徒たちのリアルな日常に迫ります。

学校の雰囲気を表すキーワードは、何と言っても「文武両道」と「質実剛健」です。勉強にも部活動にも全力で打ち込む活気と、華美に流されず、物事の本質を追求する真面目さが共存しています。

  • 宿題の量:口コミでは「多い」「特に長期休暇の課題はかなり多い」という声が多数を占めます。これは、高い進学実績を支える学習量を確保するためのものであり、生徒たちは日々の予習・復習に加え、多くの課題に取り組むことで学力を定着させています。

  • 校則(スマホ、服装など):校則は、県内の他の進学校と比較しても厳しい傾向にあるようです。特に大きな特徴は、校地内でのスマートフォンの使用が原則禁止されている点です。登校後は電源を切り、ロッカーで保管することが定められています。このルールは、生徒が学業や友人との直接のコミュニケーションに集中できる環境を作るという、学校の明確な意図の表れと捉えることができます。服装は、男子が伝統的な学ラン、女子がブレザーで、一部の生徒からは「地味」という声もありますが、これも「質実剛健」の精神を体現していると言えるでしょう。

  • 生徒たちの雰囲気:生徒は真面目で勉強熱心な生徒が多いですが、「ガリ勉ばかり」というイメージは間違いのようです。「個性的で面白い人が多い」「いじめは聞いたことがない」といった声が多く、互いの多様性を認め合う、落ち着いた成熟した雰囲気があります。厳しい課題や高い目標を共有する中で、強い連帯感が生まれるようです。

  • アルバイト:原則として禁止されています。家庭の事情など、やむを得ない場合に限り、学校の許可を得て行うことができます。

  • 制服の評判:前述の通り、男子は学ラン、女子はブレザーです。「中学生と変わらない」「地味でかわいくない」という意見がある一方で、「伝統があって良い」と感じる生徒もおり、評価は分かれるようです。

  • 土曜授業:週5日制のため、基本的に土曜授業はありません。

  • 施設の状況:120年以上の歴史を持つ学校だけに、施設の老朽化を指摘する声は少なくありません。特に「トイレが古い」「旧校舎は雨漏りすることがある」といった口コミは頻繁に見られます。ただし、近年では体育館の改修や野球場グラウンドの水はけ改善など、少しずつ改修も進められています。この少し不便な環境が、かえって生徒たちのたくましさや順応性を育んでいる側面もあるのかもしれません。

  • その他:生徒たちから意外な「良い点」として挙げられるのが、「マラソン大会や持久走がない」ことです。長距離走が苦手な生徒にとっては、大きな魅力となっているようです。

東筑高等学校の部活動・イベント

「文武両道」を掲げる東筑は、勉強だけでなく、学校行事にも並々ならぬエネルギーを注ぎます。ここでは、その活気あふれる学校生活の一端をご紹介します。

部活動

東筑高校では、全校生徒の7〜8割が部活動に加入しており、非常に活発です。限られた時間の中で集中して練習し、学業と両立させながら全国レベルで結果を出す部が数多く存在します。

  • 野球部:言わずと知れた名門で、春3回、夏6回の甲子園出場経験を誇ります。特に夏の大会では、過去の出場時にエース投手の名字が「石田」であったことが4回もあるという「石田伝説」でも知られています。文武両道を体現する象徴的な部です。

  • ラグビー部・ボート部:野球部と同様に、県内屈指の強豪として知られ、全国大会への出場経験も豊富です。

  • 生物部:研究活動が盛んで、「コオロギの鳴き声の研究」といったユニークなテーマで全国大会に出場し、表彰された実績があります。SSH指定校ならではの探究活動が部活動にも活かされています。

  • 音楽部(合唱):全日本合唱コンクール全国大会で銀賞や銅賞を受賞するなど、高いレベルで活動しています。

  • クイズ研究会:比較的新しい部ですが、2020年には「全国高等学校クイズ選手権」に福岡県代表として出場を果たしました。

  • 山岳部(スポーツクライミング):県内の高校では唯一、スポーツクライミングを正式な部活動として行っており、非常に珍しい存在です。

これら以外にも、多くの運動部、文化部が県大会以上で活躍しており、生徒たちはそれぞれの舞台で青春を燃やしています。

イベント

東筑高校の学校行事は、生徒たち自身が主体となって創り上げる、熱気と一体感に満ちたものばかりです。

  • 体育祭:最大の特徴は、クラス対抗ではなく「学年対抗」で行われる点です。1年生から3年生までがプライドをかけて競い合い、下級生が上級生に挑む「下剋上」も見どころの一つ。応援にも熱が入り、学年全体が一つになる様は圧巻です。

  • 文化祭(東筑祭):こちらも非常に盛り上がるイベントで、一般公開日には多くの来場者で賑わいます。1年生はクラスごとに劇を発表、2年生は趣向を凝らした展示や企画、そして最上級生の3年生は縁日などの模擬店を運営するという、学年ごとの役割分担が伝統となっています。フィナーレの「一声企画」では、生徒バンドの演奏に合わせて全校生徒が肩を組み大合唱し、学校全体が感動的な一体感に包まれます。

  • 修学旅行:2年生で実施される修学旅行は、生徒にとって最高の思い出の一つです。大きな魅力は、行き先を生徒自身が選択できること。近年では、海外の「ハワイ」と国内の「北海道」から希望する方を選ぶ形式が取られており、生徒の多様な興味に応える現代的な取り組みとして非常に人気があります。

東筑高等学校の進学実績

北九州地区屈指の進学校である東筑高等学校は、その名に恥じない、非常に優れた大学進学実績を誇ります。生徒たちが3年間でどれほどの学力を身につけるのか、具体的なデータで見ていきましょう。

伝統的に国公立大学、特に地元の九州大学への進学者が非常に多いのが特徴です。それに加え、東京大学や京都大学といった最難関大学にも毎年コンスタントに合格者を輩出しています。2025年度の主な大学の合格実績は以下の通りです。

大学分類 大学名 合格者数
最難関国公立 東京大学 3名
京都大学 4名
大阪大学 3名
九州大学 47名
その他主要国公立 九州工業大学 18名
熊本大学 17名
広島大学 12名
北九州市立大学 7名
難関私立 早稲田大学 5名
慶應義塾大学 1名
同志社大学 15名
立命館大学 49名
地元有力私立 西南学院大学 54名
福岡大学 53名

また、国公立大学医学部医学科にも毎年多数の合格者を出すなど、理系の進学指導にも強みを持っています。

こうした輝かしい実績は、単に生徒の能力が高いからだけではありません。学校全体で生徒の学習を強力にバックアップする体制が整っています。朝や放課後には多くの生徒が自習室に残り、熱心に質問に答える先生方の姿も日常的な光景です。一部の生徒からは「塾に通わなくても学校のサポートで十分」という声が上がるほど、手厚い進学指導が行われています。さらに、SSHの探究活動を通して培われる論理的思考力や表現力は、大学入試の小論文や面接、さらには大学入学後の学びにおいても大きな武器となっています。

東筑高等学校の特長・アピールポイント

数ある高校の中で、東筑高等学校が持つ独自の強みや魅力を、5つのポイントに絞ってご紹介します。

  • スーパーサイエンスハイスクール(SSH)としての全校的な探究学習

    全校生徒がSSHの恩恵を受けられるのが東筑の大きな特長です。文系・理系を問わず、探究的な授業や課題研究を通して、答えのない問いに立ち向かう思考力や創造性を養います。これは、大学入試改革で求められる能力とも直結しています。

  • 独自の論理的思考力育成プログラム「トータルロジックス」

    「自ら考え、論理的に表現し、相手に伝える力」を養うために、学校独自で開発された授業「トータルロジックス」を実践しています。このプログラムは全国的にも高く評価されており、ここで身につけたスキルは一生の財産になります。

  • 全国トップレベルで体現される「文武両道」

    「文武両道」が単なるスローガンではなく、学校文化として深く根付いています。甲子園常連の野球部から、全国大会で研究成果を発表する生物部まで、学業と両立させながら全国の舞台で輝く生徒が数多くいることが、その何よりの証拠です。

  • 熱狂と一体感を生む伝統の学校行事

    学年のプライドをかけた体育祭の「学年対抗戦」や、文化祭フィナーレの全校生徒による「一声企画」など、東筑ならではの伝統行事は、他では味わえない強烈な一体感と感動を生み出します。

  • 生徒の自主性を尊重する「選択制」の修学旅行

    行き先をハワイと国内から選べる修学旅行は、生徒の多様な価値観を尊重する学校の姿勢の表れです。友人たちと異文化に触れたり、日本の自然を再発見したりする経験は、かけがえのない思い出となります。

東筑高等学校の口コミ・評判のまとめ

ここでは、在校生や卒業生から寄せられたリアルな声を、良い点と気になる点に分けて公平にご紹介します。学校生活を具体的にイメージするための参考にしてください。

良い点

  • 学習環境と先生のサポートが手厚い

    「自習室が充実している」「先生方が熱心で、いつでも質問に行ける雰囲気がある」といった声が非常に多いです。勉強したい生徒にとっては最高の環境が整っていると感じるようです。

  • 一生ものの最高の仲間と出会える

    「レベルの高い仲間と切磋琢磨できる」「同じ目標に向かって頑張る中で、深い絆が生まれた」など、人間関係の充実を挙げる声が目立ちます。厳しい環境を共に乗り越える経験が、かけがえのない友情を育むようです。

  • いじめが少なく、自由で落ち着いた雰囲気

    「いじめは全く聞いたことがない」「個性が強い人が多いが、それを尊重する文化がある」という口コミが多く、生徒たちは安心して学校生活を送っています。

  • 自分次第で最高の3年間にできる

    「学校は様々なチャンスを用意してくれる。それを活かすかどうかは自分次第」「本気でやれば、勉強も部活も行事も全て楽しめる」という意見は、東筑の校風を象徴しています。自主性が重んじられる環境です。

気になる点

  • 施設の古さ、特にトイレ

    最も多く指摘されるのが施設の老朽化です。「校舎が古く、特にトイレは覚悟した方がいい」という声は、多くの卒業生・在校生が共通して挙げる注意点です。

  • 校則の厳しさ(特にスマホ)

    「校内でのスマホ使用禁止は厳しい」と感じる生徒は少なくありません。自由な校風を求める生徒にとっては、少し窮屈に感じられる可能性があります。

  • 制服が地味

    「制服がもっとお洒落だったら良いのに」という声は、特に女子生徒から多く聞かれます。ファッション性を重視する生徒には、物足りなく感じるかもしれません。

  • 九州大学志望者中心の雰囲気?という声も

    ごく一部ですが、「先生方の進路指導が九大志望者に偏っているように感じることがあった」という意見も見られます。多様な進路を考える生徒は、自ら積極的に情報を集める姿勢が必要になるかもしれません。

アクセス・通学

東筑高等学校への通学方法についてご案内します。

  • 最寄り駅:JR鹿児島本線および筑豊本線(福北ゆたか線)の「折尾駅」が最寄りです。折尾駅は特急も停車する主要駅のため、多方面からのアクセスが非常に便利です。

  • 駅からのアクセス:JR折尾駅から学校までは、徒歩で約6分から10分程度です。駅からの道のりは平坦で、通学しやすい環境です。

  • バスでのアクセス:西鉄バスを利用する場合、「則松小学校前」バス停が最寄りで、そこから徒歩約5分です。

  • 通学エリア:学校が位置する第3学区(北九州市八幡西区、八幡東区、若松区、戸畑区、中間市、遠賀郡)の生徒が中心ですが、交通の便の良さから、JRを利用して北九州市内の他の区や、さらに遠方の地域から通学している生徒もいます。

東筑高等学校受験生へのワンポイントアドバイス

最後に、進学アドバイザーとして、東筑高等学校を目指す皆さんへ応援メッセージを送ります。

東筑高等学校は、「ただ偏差値が高いから」という理由だけで選ぶ学校ではありません。困難な課題に自ら進んで挑戦したい、勉強も部活も行事も、全てに全力で打ち込んで自分を成長させたい、そんな強い意志を持った生徒にとって、最高の環境が用意されています。伝統を重んじながらも、未来を見据えた学びを求める君にこそ、東筑の門を叩いてほしいと願っています。

受験勉強においては、基礎的な知識を完璧にすることはもちろんですが、それ以上に「なぜそうなるのか」を深く考える習慣を身につけてください。東筑高等学校の入試問題や、入学後の授業で求められるのは、単なる暗記力ではなく、物事の本質を捉える論理的思考力です。難しい問題にも粘り強く取り組む姿勢が、合格への道を切り拓きます。

東筑での3年間は、決して楽な道のりではないかもしれません。しかし、そこで得られる知識、経験、そして一生涯の友人は、何物にも代えがたい宝物になるはずです。ぜひ一度、文化祭などの機会に学校を訪れ、先輩たちの活気とエネルギーを肌で感じてみてください。皆さんの挑戦を心から応援しています。

※最新かつ正確な情報は、必ず高校の公式サイトや学校説明会で確認してください。